読売新聞とのインタビュ

欧州中央銀行(ECB)のブノワ・クーレ専務理事へのインタビュー、聞き手 五十棲忠史  2016年5月20日紙上掲

仙台市で開催されるG7財務相会議に出席しますが、最重要の議題は何だと思うか。

国は、低成長・低インフレ(低い物価上昇率)からいかにして抜け出すかという共通の課題を抱えている。重要なのは、協調して行動することだ。複数の政策を組み合わせて取り組む必要がある。

は、物価低迷の長期化を防ぐため、短期金利を0%前後またはマイナスになるよう誘導し、将来の金融政策の方向性を示す「フォワード・ガイダンス」という手法も導入した。国債などを毎月800億ユーロ(約10兆円)購入する量的金融緩和策は、最短でも2017年3月まで続ける。6月からは、金融機関以外が発行する社債も、購入対象に加わる。ユーロ圏の銀行は、ECBに国債を売って得たお金を融資に回しており、相乗効果が出ている。

マイナス金利は金融業界にとっては痛手だ。

マイナス金利政策は、銀行や年金基金、保険業界にとって負担となっている。ただ、今のところ、融資増や引当金の減少により、銀行業界全体の収益は増えている。マイナス金利の導入から2年近くが過ぎたが、欧州の短期金融市場は混乱していない。

は現在、民間銀行から余ったお金を預かる際に適用する金利を「マイナス0・4%」としている。さらに引き下げることは可能だが、現在のところその予定はない。ECBは今年3月、個人や企業への融資を増やした民間銀行に、4年間固定金利で資金供給することを決めた。融資の基準値を設定しており、その基準を超えて融資を増やした銀行には、マイナス0.4%の金利で供給する。マイナス金利の幅を拡大するよりも、この資金供給政策のほうが重要だと確信している。

ECBの金融政策は、実体経済にどのような影響を与えているとみているか。

一連の金融緩和政策が、経済を短期的に支えていることは明らかだ。欧州経済は、景気後退から回復しつつある。しかし、金融政策は、永遠に経済成長を支え続けることはできない。長期的な経済成長は、生産性の向上や経済の好循環などによってもたらされる。改革の提案と実施は、民主的に選ばれた政府の仕事だ。

ドラギECB総裁が財政政策や構造改革も重要であると記者会見で主張しているにもかかわらず、欧州には財政支出を増やすことに消極的な国もある。この点についてはどう思うか。

政政策についてのG7での議論は、歳出額を増やすことではなく、歳出の質をどう高めていくかという内容にすべきだ。「財政余力がある国は、支出を増やすべきだ」という考えにECBも賛成するが、多くの国は財政余力がない。非生産的な分野への支出を減らし、生産性向上につながるインフラ整備や、教育・研究開発への支出を増やせば政府債務を増やすことなく、成長につなげることができる。

外国為替政策について聞きたい。年明け以降、円高が進むなど、為替相場の変動が非常に激しくなっている。過度な変動を抑えるためにG7に何ができると思うか。

2月の上海、4月のワシントンでの会合で確認された通り、主要20か国・地域(G20)は、競争力を高めることを目的に、通貨安への誘導を行わないことで一致している。世界経済の不透明感を抑えるためにも、関係国すべてが合意を守るべきだ。

新興国では経済が減速し、先進国の成長率は低迷している。G7は世界経済にどう対処すべきか。

経済成長が世界的に落ち込む中で、他国を犠牲にしてでも成長率を高めたいとの誘惑にかられる国があるかもしれない。こうした誘惑に抵抗することこそが、G7やG20の役割だ。成長力を高める「特効薬」は存在しない。G7各国は、「成長につながる(規制緩和などの)構造政策に焦点を当てる」との意思表示をすることが必要だ。他国をあてにすることなく、「成長は、自分の国から始まる」という各国の決意が聞きたい。